

ダイヤ「わたくしにバク転のコツを教えてくださいっ、何でもしますから!」ドゲザァ!!
千歌「なんだなんだ!? 突然!」
千歌「えっと。どうしたの、いきなり」
ダイヤ「黒澤として。姉として。為さねばならぬことがあるのですわ」
千歌「何も伝わらないんだけど」
ダイヤ「お願いですわ! どうか何も聞かずにバク転の伝授を!!」グリグリ
千歌「わ、分かった! 分かったから頭を地面に擦り付けるのはやめて!」
ダイヤ「ありがとうございます、ありがとうございます!」グリグリ
千歌「だからやめてってばぁ!」
ダイヤ「というわけで、体育倉庫からマットを持ってきましたわ」
千歌「じゃあやろうか。何が何だか分からないけど」
ダイヤ「それでは、よろしくお願いしますわ千歌先生」
千歌「先生はやめて。むず痒いから」
千歌「じゃあコツを簡単に説明するからよく聞いてね」
ダイヤ「はい! メモの用意もばっちりですわ!」
千歌「えっとね。まず、バッと勢いをつけるでしょ?」
ダイヤ「ふむふむ。バッと勢いを」メモメモ
千歌「その勢いで、グィッ!と捻ってバッ!と跳んでグルッ!と回ってスタッ!と着地するの」
ダイヤ「ふむふ……む?」
ダイヤ「千歌さん。今なんと?」
千歌「グィッ!と捻ってバッ!と跳んでグルッ!と回ってスタッ!と着地」
ダイヤ「……」メモメモ
ダイヤ「……」
ダイヤ「グィッ!と捻ってバッ!と跳んでグルッ!と回ってスタッ!と着地……ですか」
千歌「そう!」
ダイヤ「難しいですわね、バク転って。何も分かりませんわ」
千歌「そうだね。でも練習すればダイヤちゃんなら大丈夫だよ。頑張ろう!」
ダイヤ「……先生の選択、失敗したかもしれませんわ」
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ダイヤ「――はっ! ……ピギャ!?」ドサッ
千歌「うーん……。上手くいかないなぁ」
ダイヤ「ま、まだですわ。もう1本……ピギャ!」
ダイヤ「ぜぇ、ぜぇ……まだまだ」
ダイヤ「とぅ! ピギッ……痛いですわ。でも、まだっ」
千歌「……ダイヤちゃん」
ダイヤ「何ですの? あっ、新しいコツの伝授とか!?」
千歌「休憩にしよう」
ダイヤ「え。で、でも」
千歌「疲れて変な失敗したら怪我しちゃうって。これ、見てると危なっかしいね。あの時のみんなの気持ちが分かるよ」クスッ
ダイヤ「っ、……分かりましたわ。従います」
千歌「あはは。なんか、ごめんね。自分のこと棚に上げて、卑怯な言い方だって千歌も思うんだけど」
ダイヤ「いえ。……痛いほど分かりますわ。あの時の千歌さんの気持ちも、今の千歌さんの気持ちも」
千歌「身体も痛いしね?」
ダイヤ「ふふっ。そうですわね」
千歌「はい。お茶、飲むよね?」
ダイヤ「ありがとうございますわ。……ずずず」
千歌「……でも、意外だな。ダイヤちゃんのこんな姿って」
ダイヤ「意外?」
千歌「ダイヤちゃんって、ほら。いつも涼しい顔して何でもやっちゃうじゃん」
千歌「黒澤家の長女として当然ですわー、なんて。苦労してるようなところは見せないし」
ダイヤ「実際、黒澤家の長女として当然ですもの」
千歌「うん。だから、意外だった。こんなに汗かいて、マットの埃に汚れて、髪も乱れて」
千歌「それでもまだ跳ぼうとするダイヤちゃんは、意外だよ」
ダイヤ「……幻滅しましたか? あの黒澤ダイヤもこんなものか、と」
千歌「そんな、幻滅なんて。ただ、ダイヤちゃん的にはどうなのかなって思っただけ」
ダイヤ「わたくし的には?」
千歌「だってダイヤちゃんプライド高いじゃん。こういう泥臭いのって、嫌いだと思ってた」
ダイヤ「ふふっ」
ダイヤ「もちろん嫌いですわよ。このわたくしが埃まみれだなんて。まったく、人様には見せられません」
ダイヤ「でもわたくしは、こんな方法しか知らないから。……ねえ、千歌さん」
千歌「?」
ダイヤ「わたくしは別に優秀な人間ではないのです。果南さんのような体力も、鞠莉さんのような柔軟な頭脳もない」
ダイヤ「わたくしは凡才ですわ。個々の才能ならルビィに劣ることも少なくない。きっと、あなたにだって」
千歌「……そんなこと、ないと思うけど」
ダイヤ「どうしてそう思うんですの?」
千歌「実際、何でもやっちゃうじゃん。不安そうな顔も見せないし、いつも自信満々で、自分なら出来て当たり前だって」
千歌「ダイヤちゃん、怖がることとかないし。辛いことがあってもみんなを支えて、ダイヤちゃんだけは絶対に折れない」
千歌「みんな、そう思ってるよ」
ダイヤ「――当然ですわね」
千歌「ほらぁっ!」
ダイヤ「しかしそれはわたくしが、ただのダイヤではなく黒澤ダイヤだからですわ」
千歌「……どういう意味?」
ダイヤ「黒澤の名に求められるものがある。黒澤の名を背負い積み上げてきたものがある」
ダイヤ「それらはすべて、わたくしの誇りですわ。わたくしは、才など無くともわたくしが築き上げてきたすべてを信じています」
ダイヤ「これだけのことをやって来たのだ、何を恐れることがあるものか――と」
千歌「……」
ダイヤ「もちろん、その道程は決して優雅なものではありませんでしたわ。あなたの言う泥臭い道でした」
ダイヤ「でもその泥が、今のわたくしを支えているのです。これからも、積み上げるべきものなのですわ」
ダイヤ「このバク転だって同じことです。黒澤の長女として求められるのならそれを果たす。ただ、それだけ」
千歌「……」
千歌「私は」
ダイヤ「ええ」
千歌「私は昔から、結構簡単に諦めちゃう子だった」
ダイヤ「らしいですわね」
千歌「いつも曜ちゃんや果南ちゃんと一緒にいたから。あの2人が出来ることが千歌には出来なくて」
千歌「頑張って追い抜いてやる!って思ったこともあるよ。でも、またすぐに抜き返されるんじゃないかって」
千歌「そう思ったら頑張れなかった。頑張っても敵わないなんてそんなの……怖いから」
ダイヤ「けれど、今のあなたはそうではない」
千歌「そう言ってくれるんだ?」
ダイヤ「もちろん。あなたはAqoursの、わたくしたちが認めたリーダーですもの」
千歌「……私は私を信じてなかった。でも、みんなが私を信じてくれたから。私が凄いって思うみんなが私を信じてくれたから」
千歌「諦めなければ私でもどこかに辿り着けるかも、輝けるかもって。そう思えたんだ……」
千歌「ダイヤちゃんは、やっぱり凄いよ。自分一人で、自分をそんなにも信じることが出来て」
ダイヤ「同じことですわ。わたくしには家が、あなたには仲間があった。それだけのこと」
ダイヤ「あなたが高海千歌に向けるその信頼――とても尊いと思いますわ」
千歌「……ありがとう」
千歌「えへへ。ダイヤちゃんが卒評する前に、この話が出来て良かったよ」
ダイヤ「本当に。ルビィの無茶ぶりにも感謝しませんとね」
千歌「ルビィちゃん?」
ダイヤ「何でもありませんわ、何でも」
ダイヤ「……長話をしてしまいましたわね。さあ、バク転の練習を再開しましょうか」
千歌「うん。私もしっかりアドバイスするね!」
千歌「ダイヤちゃんはもっとこう、思いっきりグィッとやった方がいいと思う!」
ダイヤ「さ、参考にさせてもらいますわ……」
千歌「ダイヤちゃんなら出来るよ。信じてる」
ダイヤ「ふふ」
ダイヤ「当然ですわ。誰にものを言っているつもり?」
ダイヤ「――ありがとう」
ヒュ、タンッ…
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聖良「私に日舞をご教授頂けないでしょうか、何でもしますから!!」ドゲザァ
海未「は、函館からはるばる!? 何事ですか、いったい!?」
おしまい
~ダイヤちゃんのバク転☆虎の巻~
|c||^.- ^|| ワンポイント!
グィッ!と捻ってバッ!と跳んでグルッ!と回ってスタッ!と着地ですわ!
それから――仲間への感謝を
ルビィ「??? ……なにこのメモ」
本当におしまい
ありがとうございました
SSって感じがする
ギャグの中で真面目な話するのモルダウ感あった
元普通怪獣と黒澤家長女か。良きダイちかだった
何故あたしに教わろうとしないのかな~ん?