

あれ?どこだっけ、ここ?
あっそっかぁ・・・私、飛び込みの練習中に新技を試して、失敗して・・・
真っ白な天井
ここ、病院のベッドかぁ
???「・・・ん?・・・さーん?」
だれかが呼んでる
???「渡辺さん?渡辺さーん?」
ぼんやりと目を開ける
天使かな?
ぼうっとしてるけど、綺麗だなぁ
???「渡辺さーん?」
はーい
声に出したつもりだけど、声が出てない。参ったなぁ、思ったより重症みたいだ
梨子「あっ」
なんだ、天使かと思ったら看護師さんか
梨子「せ、先生を呼んできますね!」
・・・行っちゃった
天使じゃなかったけど、美人さんだったなぁ
・・・不幸中の幸い?今度名前聞こう
~桜内梨子の日誌~
今日、新しい患者さんの担当になりました
渡辺曜さん、年齢は・・・私と同い年、職業は水泳の飛び込み選手
あまりスポーツ番組を見ない私でもニュースや新聞で聞いた事がある、有名人です
同じ女性だから担当にされたのかな?なんて思いながら、はじめて集中治療室に横たわる渡辺さんを見たとき、私は思わず息を飲んでしまいました
色々なチューブや酸素マスクが繋がれた渡辺さんは・・・
眠り姫のように綺麗で・・・
なんて、一生懸命戦ってる患者さんに対して不謹慎な事を考えてしまいました
翌日。脳波やデータから、もうじき渡辺さんが目を覚ますかもしれない、と先生から話されました
定期的に声をかけて呼び掛けてあげてくれないか?と指示を受け、私は渡辺さんの名前を呼びます
「渡辺さん?渡辺さーん?」って
最初の数回は、全く反応なし
半日ほど続けた頃に、先輩が気を効かせて代わろうか?と提案してきてくれました
ちょっと考えて、気持ちだけ貰う事にしました・・・なんでだろ?
渡辺さんの顔が見たかった・・・のかな?
「渡辺さん?渡辺さーん?」
あっ
その時渡辺さんが、うすぼんやりとした目で私をみました
ドキッ!と、心臓が跳ねる音が聞こえたような気がします
私は慌てるように、先生を呼ぶために廊下へと駆け出してしまいました・・・
おはヨーソロー
私の名前は渡辺曜
職業、飛び込みの選手をやっています
お恥ずかしながら・・・先日新技の練習中に失敗して、現在入院中
オリンピックの代表選考会も後半年後に控えた中で、入院・・・
痛い、正直痛すぎる!
・・・とは言っても、色々とチューブや心電図なんかは外れたけど、今はまだ、指すら上手く動かせないから焦っても仕方ないね
お医者さんの話だと、骨や内臓に異常なし。身体が上手く動かないのは、落水の衝撃とショックでカチコチに固まったためらしい
「呆れるほどに頑丈ね、貴女」
と言われてしまった・・・
まぁ不幸中の幸いか、2・3週間リハビリとマッサージで退院できるみたい
なら私の目標は決まりだ!
リハビリしっかりやって!復帰!
そして目指せオリンピック!
1日でもはやく・・・
いや、1日でもはやく、は止めよう
だって・・・
コンコン!
梨子「渡辺さん?お食事の時間ですよ?」
曜「あっ!はーい!」
身体が動かせない私のご飯は、看護師さんが介助して食べさせてくれる
・・・そう、看護師さんが
・・・目を覚ました時に、天使かと思った看護師さんが!
曜「あーん!」
梨子「・・・」
曜「あれ?梨子ちゃん?あーん?って言ってくれないの?」
梨子「・・・」タメイキ
梨子「子供じゃないんですから・・・」
梨子「はい、お口開けてくださいね~」
曜「ちぇーっ」
・・・入院、最高かもしれない!
~桜内梨子の日誌~
「あーん!」
渡辺さんが無邪気なで、雛鳥のように口を大きく開けた
「あれ?梨子ちゃん?あーん?って言ってくれないの?」
なんて言うから、思わず掬っていたお粥をスプーンから溢してしまう・・・
ドキッ!とまたしても心臓の跳ねる音
何回目だろ?この患者さん・・・渡辺さんと接するようになってから、このたった2日間で・・・
「子供じゃないんですから」
なんて溜息をつくふりをする
相手は患者さん、患者さん、患者さん。動揺を悟られないようにしなきゃ!
・・・患者さんなのに、こんなに心臓がドキドキするのはいけない事よね?
曜「えーっ!明日から梨子ちゃん居ないの?」
隣でリンゴを剥いてくれる梨子ちゃんの口から、明日から私非番で居ないよ?との言葉が!
なんて事だなんて事だ・・・生きる意味を、失う
は大げさだけど、梨子ちゃんからあーんして貰えない!
曜「梨子ちゃんからあーんして貰えないじゃん!」
梨子「・・・私の代わりに婦長さんが来てくれるわよ?」
目線を外したまま、リンゴをシャリシャリ音を立てて剥く梨子ちゃん
相変わらずクールだなぁ
曜「婦長さんってあのでっかい、うちっちーみたいなおばちゃん?」
梨子「婦長さんが聞いたら怒るわよ?」
うーん、なんとか回避したい
梨子「明日からリハビリ開始でしょ?それでスプーンが持てるようになれば、大丈夫よ?」
あっそっか!明日からリハビリだった!
曜「よーし!リハビリがんばるぞー!」
曜「・・・って梨子ちゃんが帰って来てもあーんして貰えなくなるって事じゃん!」
私がガーン!とショックを受けると、梨子ちゃんはフフッと笑ったような気がした
今笑った?ねぇ笑った?と指摘すると、相変わらずクールな感じでやり過ごされた・・・
~桜内梨子の日誌~
休み時間に私は、渡辺さんの病室に通うようになっていた
忙しい仕事も、辛い事があっても、渡辺さんの声と笑顔から勇気が貰えるような気がしたから・・・
梨子ちゃんからあーんされたい!って駄々をこねる渡辺さんの口に、一口サイズに剥いたリンゴを押し込む
はい、あーん
なんて心の中で言ってみる
渡辺さんは、えへへー、なんて言いながら笑顔でそれを頬張る
その表情で、またドキッとしてしまった
明日から非番・・・
そっか、渡辺さんと会えないんだ
そう考えると私の心は、ギュッと押し潰されたようになってしまうのでした
スクフェスの影響?
あれ素晴らしいからね。続きます
ナース内さんいいよね
~番外編、桜内さんの休日~
アナウンサー『さぁ渡辺!回って!どうだっ!決まりだ!得点は?』
アナウンサー『渡辺逆転!金メダル!』
アナウンサー『渡辺やりました!日本選手権初制覇!』
渡辺さんの動画を視ながら紅茶を口にする
私はスポーツには明るくないから飛び込みの動画なんて初めて見るけれど、渡辺さんが凄い人なのはよく分かった
梨子「一度は日本一になった、って事よね?」
良く知らないので断言は出来ないけど、きっとそう
本来なんかは私みたいな一般人がお近づきになれない人なんだろう
梨子「・・・」
カチカチ、とマウスを動かす
渡辺さんがどんな人なのか、もう少し知りたくなった私はインターネットで調べる事にした
梨子「渡辺・・・曜と」
物凄い数の件数、どれから調べればいいのかしら・・・
ん?
『渡辺曜ちゃんの尻wwww☆445』
・・・き、興味本位であってやましい気持ちはこれっぽっちも!
カチッ!
なんでも実況し?って所なんだ、掲示板かな?
カチッ!
えっ!これ、渡辺さんの競泳水着画像が沢山!?ええっ!
梨子「み、みんな渡辺さんをそういう目で見て・・・」(保存)
梨子「は、破廉恥!競泳水着じゃない!」(保存)
梨子「全く!」(保存)
梨子「・・・」
『渡辺さんのかわいい私服姿とかないのですか?』カタカタ
(保存)
好き
期待
ううっ、昼間は酷い目にあった・・・
今日からリハビリ開始
梨子ちゃんは今日明日お休み
という事である計画を考えたんだ
①リハビリをギリギリ迄がんばる
②帰ってきた梨子ちゃんが動ける私を見て驚く
③梨子ちゃんに褒められる
悪魔的っ・・・!完璧な発想っ・・・!これでかつる!
という事でリハビリにも気合いを入れて臨んだんだ
リハビリ担当の松浦先生、この人もまぁ凄い美人さんで最初はとても嬉しかったんだけど・・・
~~~~~
果南「やっほ、担当の整体リハビリ師の松浦です」
果南「今日からリハビリをするんだけど、最初だからストレッチね」
曜「ストレッチかぁ、柔軟とかかな?」
果南「ううん?あなたアスリートでしょ?身体も頑丈そうだし、限界まで身体を伸ばしてもらうよ」
曜「限界まで?」
果南「うん!分かりやすく言えば関節技かな?」
曜「えっ」
~~~~~
まさか初日からアロガントスパークを喰らったみたいな姿勢にされるとは思っても居なかった・・・
おかげで上半身も起こせるし、スプーン位ならつかめるようになったから婦長さんにあーん!される事態は回避できたけど
曜「・・・梨子ちゃんに会いたいなぁ」
なんて、過酷なリハビリで少し弱気になってしまうのでした
あっ、お粥こぼした・・・
~桜内梨子の日誌~
どうしよう
渡辺さんのかわいい画像で1日中ニヤニヤしてたから、顔が戻らない・・・
というか高校生の時にスクールアイドルなんてしてたのね、渡辺さん。あんなに可愛らしくて・・・
ダメダメダメ!平常心、平常心!
明日から勤務だけど、渡辺さんの前でポーカーフェイス出来るのかな?私・・・
・・・おかしい
梨子ちゃんが来ない
今日から梨子ちゃんは勤務のハズ
なのに梨子ちゃんが私の個室にやって来ない
・・・おかしい
まぁ良いや、来ないならこちらから行こう
2日間松浦先生の地獄のリハビリを受けた結果!
ジャーン!
車椅子が部屋にやって来たのです!
パチパチパチパチ!
先生は
「筋肉が戻った訳じゃないから勝手に出歩かないように?家族か看護師について貰うのよ?」
なんて言ってたけど、ヒャア我慢できない!
一応目立たないように愛用の帽子をかぶって、梨子ちゃん探しの旅に出発だ!
~数分後~
曜「迷子になった」
参ったなぁ・・・この病院中庭とかもあって思ってた以上に広い・・・
腕も疲れてきた・・・
というかこんなに筋肉が動かないとは思ってもいなかった・・・
曜「仕方ない、諦めて病室に戻るか~」
♪~
曜「・・・ピアノ?」
曜「・・・このメロディ」
曜「・・・ユメノトビラだ!」
~桜内梨子の日誌~
1週間に何回か
入院している人達の気晴らしも兼ねて、私や渡辺さん担当の先生は受付奥のホールにあるピアノで演奏をします
先生曰く「趣味と実益を兼ねてて良いと思わない?」だそうです
今日は本当は先生がピアノを弾く番でしたが、無理を言って替わって貰いました
・・・休み明けに渡辺さんと顔を合わせる事に、何となく私が抵抗を覚えたから・・・
もし渡辺さんの所に行って、この間迄と同じように接して貰えなかったら?とか
私がこの間までと同じように接する事ができるだろうか?とか
色々な気持ちがぐるぐると頭と心で渦を巻いて、渡辺さんの所に行くことが怖くなってしまって
そんな考えを振り払うように、私はピアノを弾く
・・・でも、そんな事ないよ!
と言わんばかりに
弾き終わった後に顔を上げると、
車椅子に乗った渡辺さんが
とびきりの笑顔で
私に向けて拍手をしていた
~~~~~
曜「梨子ちゃん!凄いや!」
私は心の底から思った事を口にする
曜「ピアノ、上手なんだね!」
筋肉痛でもう腕が上がらないけど、精一杯拍手を続ける
梨子「わ、渡辺さん!?」
曜「今のユメノトビラだよね?どこで知ったの?もしかしてスクールアイドルとかしてたの?」
梨子「・・・もう!質問は一度に一回!」
梨子「でも驚いたわ、私が休んでる間に車椅子に乗れる位まで回復するなんて・・・」
そう言いながら、梨子ちゃんは私の車椅子を押してくれる
梨子「流石はトップアスリート、なのかしらね」
フフッと笑う梨子ちゃん
・・・うん、梨子ちゃんは笑顔の方が素敵だ、怒ってたりクールだったりする梨子ちゃんも素敵だけど
曜「梨子ちゃんに褒められるたくて頑張ったからね!」
梨子「そうね、松浦先生のリハビリ、大変だったでしょ?」
曜「なんだ、知ってたんだ。最初から言ってくれたら良いのに」
梨子「言っても内容はかわらないわよ?」
そりゃそうだ
梨子「でも、ホントに頑張ったみたいね?」
曜「でしょ~?ご褒美が欲しいな?」
梨子「良いわよ?」
曜「えっ」
梨子「?」
曜「いや、まさか「良いわよ」なんて言われるなんて思ってなかったから・・・」
梨子「はやくしないと私の気が変わっちゃいますよ~?」フフッ
曜「ち、ちょっと待って!」
梨子「5~4~3~」
曜「カウントダウン始めた!?」
曜「えー!あー!うー?よし決めた!」
曜「じゃあ!梨子ちゃん!これから・・・」
~夜~
あー、なんか色々あった
腕は疲れて動かないし
先生には無断外出を怒られるし
でもいっか
腕が動かないから今日は梨子ちゃんがご飯食べさせてくれるし!
コンコン!
っと、噂をすれば影
曜「はーい!」
梨子「はい、食事の時間ですよ?」
曜「ねぇねぇ梨子ちゃん、私疲れて腕が上手く動かせないんだよね?」
曜「アーンとかしてくれて良いんだよ?」
梨子「・・・」
梨子「・・・食事もリハビリの一貫ですからね?とりあえずご自分でどうぞ」
曜「えーっ!梨子ちゃん冷たいよ!」
梨子「もう、良い歳してワガママ言わないの?」
梨子「・・・”曜ちゃん”」
ハグで背骨を伸ばします
ボキボキってすごい音しそう
~松浦先生と曜ちゃん~
果南「さ、今日も張り切ってリハビリをするよ!」
曜「よ、よーそろー・・・」
果南「元気が足りてないなぁ・・・」
曜「わ、わーい!曜ちゃん元気一杯でーす!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!」
果南「んじゃ、いつも通りストレッチからね?」
曜「ぎにゃあああああ!」
果南「はーい次はこうやって、こう!」
曜「ウギャーッ!梨子ちゃーん!」
果南「イヤーッ!」
曜「グワーッ!」
梨子「声だけ聞いてたら拷問ね、曜ちゃん頑張って・・・」
曜「つ、つかれたよーそろー・・・」
梨子「曜ちゃん、お疲れ様」
梨子「松浦先生のリハビリ辛いでしょ?曜ちゃん良く耐えられるわね?」
曜「いや、あの関節技はしんどいけどね」
曜「関節技だから、あのたわわが身体に密着して満更でもな・・・って梨子ちゃん?車椅子だけ持って先に行かないでよ!」
梨子「どうせ私はそんなにないですよーだ!曜ちゃんのスケベ!」プンプン
~非番で仕事場に来ることはまれによくある~
ナース「渡辺さん~検温の時間ですよ?」ガラガラガラ
ナース「・・・桜内さんが居る?じゃ任せていっか」
ナース「失礼しました~」ガラガラガラ
ナース「あれ?今日って桜内さん非番ですよね?」
婦長「ああ、非番で暇してるから渡辺さんの世話してるんだと」
ナース「ええ・・・(困惑)」
~桜内梨子の日誌~
曜ちゃんの部屋から出てきた後に、先生から呼び止められる
「渡辺さんのリハビリは順調よ」
「多分あと3日もすれば退院ね」
「・・・まだ渡辺さんには伝えて無いわよ?貴女にだけ」
「・・・まぁ自分で考えなさい」
そう言われた
そっか、もうすっかり元気になって動いたりしてたから・・・
あと3日で退院か
楽しかった日々、患者と看護師の関係も、それでお仕舞い
そのあとは他人として、それぞれの人生を生きるだけなんだ
・・・曜ちゃん
私は3日後、曜ちゃんに何を伝えよう
~~~~~
曜「いやー!長かったなぁ!」
退院当日、曜ちゃんはウキウキと荷物を整理しながら話を続ける
曜「でも直ぐに練習に入らなきゃ!『渡辺曜引退か!?』とか『次回五輪絶望的!?』とか書いたマスコミに目にもの見せてやるんだ!」フン!
梨子「・・・曜ちゃんはいつも元気ね」
梨子「私はね、曜ちゃん」
梨子「・・・看護師失格かもしれないけどね、寂しいの」
梨子「だってね?曜ちゃんが退院して患者じゃなくなったら、私と曜ちゃんは他人だもの」
梨子「・・・曜ちゃんは寂しくない?」
曜「・・・」
曜「・・・梨子ちゃん」
曜ちゃんは荷物を纏める手を止める
曜「私ね?この入院は回り道と思ってるけど、して良かった回り道だと思ってる」
曜「だって、梨子ちゃんと出会えたから」
曜「・・・最初意識が朦朧としてる時に、梨子ちゃんの事を天使かと思ったんだ」
曜「白い服着てるし、綺麗だったし」
曜「でも、実際は違ってた」
曜「真面目だし、クールだし、すぐに怒るし、すぐお姉さんぶるし・・・」
曜「優しいし、笑顔が素敵だし、かわいい所があるし・・・」
曜「ね、梨子ちゃん?」
曜「私ね」
曜「梨子ちゃんの事が好きです」
曜「患者じゃなくなるから、次は恋人になって貰えませんか?」
曜「私もね・・・梨子ちゃんと他人になるの嫌なんだ」
|c||^.- ^|| ナースですわあ
婦長、座ってて下さい
草
草
千歌は出てくるのだろうか…