

ダイヤ「・・・・・・・・・」
カキカキ
ダイヤ(外で部活に励む生徒も、この時期はまばらなせいか)
ダイヤ(冬の生徒会室は――静かで、どこか寂しい)
ダイヤ(もっとも、私にとっては、落ち着いて仕事が出来る良い環境)
ダイヤ(だけど、もうすぐ昼休み)
ダイヤ(この、私だけの静寂を吹き飛ばしてしまう――)
ダイヤ(あの子が、そろそろやって来る頃)
バタバタバタ
ガラッ!
千歌「こんちかー!」
ダイヤ「ノックもせずに入ってくるのは、不躾ですわよ」
千歌「えへへ、すいません」
千歌「でも、チカとダイヤさんの仲だし、いいかなーって」
ダイヤ「何を言っておりますの。“親しき仲にも礼儀あり”ですわ」
ダイヤ(これ以上は、またお説教になってしまいそうなので――私は、ため息をついて、口を閉じる)
ダイヤ(千歌さんは、構わずニコニコしながら、私の向かいの机の上に、お弁当を広げ始めた)
ダイヤ「また、ここでお昼を食べるんですの?」
千歌「迷惑ですか?」
ダイヤ「いえ、そこまでは言っていませんが・・・・・・」
千歌「ですよねっ!」
ダイヤ「・・・・・・相変わらず厚顔無恥な方ですわね」
ダイヤ「ですが、なぜわざわざここで? 曜さんや梨子さんと、教室で食べれば良いではありませんか」
千歌「ほら、ダイヤさんがひとりで生徒会室にこもってるのを、ほったらかしにするのは可哀相かなって!」
ダイヤ「余計なお世話ですわ」
ダイヤ(このところ、千歌さんは毎日のように、昼休みになると決まって生徒会室にやってくる)
ダイヤ(千歌さんがお弁当を食べながら、とりとめのない話をして、私がそれに相槌をうつ)
ダイヤ(まったく、何が楽しくて、こんなことをしているのか・・・・・・)
千歌「ダイヤさんだって、物好きじゃないですか」
ダイヤ「なにがですの?」
千歌「生徒会の仕事ですよ。もう来期の生徒会長も決まってるんだから、仕事なんて丸投げしちゃえばいいのに」
千歌「3年生はもう登校しなくてもいいのに、こうやってわざわざ生徒会室に来て、仕事してるんですから」
ダイヤ「わたくしの好きでやっていることですわ。諸々の雑事はきちんと片付けてから、引継ぎをしたいので」
千歌「だったら、もっと部活の練習の方にも、顔出してくださいよー」
ダイヤ「それはまた、別の話ですわ」
ダイヤ「わたくしの、スクールアイドルとしての活動は、終わったんですの」
ダイヤ「最後に、念願のラブライブに出場することも出来ましたし」
ダイヤ「未練は無いですわ。これからは、千歌さんたちが、新たなAqoursの歴史を作っていくんですのよ」
ダイヤ(本音を言えば――未練を残したくない、というのが本当の所なのかもしれない)
ダイヤ(これ以上、自分があの場にいたら――いつまでも、スクールアイドルとして輝きたかった、輝いていた、あの日々を引きずってしまう)
ダイヤ(そうならないように――けじめをつけるために、距離を置きたかったのかもしれない)
ダイヤ(だけど――)
千歌「――だけど」
ボソッ
千歌「やっぱり――さみしいな」
…………
……
千歌「ねぇ――ダイヤさん」
千歌「ダイヤさんは、卒業したら――内浦を、離れるんですよね?」
ダイヤ(次の日の昼休み――)
ダイヤ(唐突に、千歌さんが呟いて――私は、思わず箸を止めた)
ダイヤ「ええ――そうですわ」
ダイヤ「静岡の大学に、推薦が決まっておりますから」
ダイヤ「内浦から通うのは大変なので、一人暮らしをいたしますわ」
千歌「ふーん・・・・・・」
千歌「鞠莉さんは、経営の勉強をするために、東京の大学に行っちゃうし」
千歌「果南ちゃんは、インストラクターの資格をとるから、沼津の専門学校に」
千歌「寂しくなっちゃうなー」
ダイヤ「もう、何を言っているんですの? そんなこと、とっくにわかっていたことではありませんか」
ダイヤ「それに、今生の別れという訳ではありません。皆、会おうと思えばすぐ会えますわ」
千歌「わかってます――けど」
千歌「もう――2月も、半ば」
千歌「あと、2週間くらいで――みんな、卒業しちゃうんですよね」
ダイヤ「・・・・・・・・・」
…………
……
ダイヤ(千歌さんは、昼休みになると、生徒会室にやって来る)
ダイヤ(今日もまた、やって来る)
ダイヤ(お弁当を食べながら、とりとめのない話をして)
ダイヤ(私がそれに、相槌を打つ)
千歌「雪の話、知ってますか?」
ダイヤ「雪の話?」
千歌「そう、雪の話」
千歌「沼津って、全然雪なんか降らないじゃないですか」
千歌「ましてや、海沿いの内浦なんて、全く降らない」
千歌「だから、雪が振るって、すごいことなんです」
千歌「この地方で、雪が降った日に、お願いした願い事は――」
千歌「必ず、叶うんだって」
千歌「たとえば、誰かに告白したら、必ず両想いになれるって――」
千歌「そんな、沼津の女の子たちの間で囁かれてる、噂」
ダイヤ「馬鹿馬鹿しい」
ダイヤ「そんなの、迷信ですわ――ただの噂話ではないですか」
ダイヤ「それに――」
ダイヤ「雪なんて、降るわけがありませんわ」
千歌「そう――ですよね」
千歌「ただの、噂話」
千歌「雪なんて――降るわけ、ないし」
ダイヤ(毎日、やって来る貴方を)
ダイヤ(どこか、心待ちにしている自分がいるなんて――)
ダイヤ(認めたく、なかったのかもしれない)
しえん
…………
……
ダイヤ「もう、残っていた生徒会の仕事も、あらかた片付きました」
ダイヤ「ですから、こうして生徒会室に来るのも、明日で最後になりますわ」
千歌「―――」
千歌「そう――ですか」
千歌「明日で、終わりなんですね」
ダイヤ「毎日、飽きもせずにここに来て――」
ダイヤ「わたくしの話し相手になって頂いて、ありがとうございました」
ダイヤ「もっとも――話していたのは、千歌さんばかりでしたけれど」
千歌「そうですよ」
千歌「ダイヤさんの方こそ、色々話してくれればいいのに、チカばっかり」プクッ
千歌「もー。ダイヤさん、もっと話してくれればよかったのに」
千歌「もっと――話したかったのに」
ダイヤ「――千歌さん?」
千歌「もっと、ダイヤさんの話が、聞きたかった」
千歌「スクールアイドルのこととか、もっとお話ししたかった」
千歌「もっと、一緒にいたかった」
千歌「もっと・・・・・・」
ポロッ…
期待!
千歌「寂しい・・・・・・」
千歌「3年生の、みんなが・・・・・・ダイヤさんが、いなくなっちゃうのは・・・・・・」
千歌「やっぱり・・・・・・寂しいから・・・・・・」
ダイヤ「千歌さん・・・・・・」
千歌「――っ」グイッ
千歌「ご、ごめんなさい! なんかチカ、変で――」
千歌「また、明日――来ますねっ!」
ガラッ
バタタッ
ダイヤ「千歌さん!」
ダイヤ(こぼれた涙をぬぐって、)
ダイヤ(無理に笑顔を作って、顔を伏せ気味にして、千歌さんが走り去ってしまった後)
ダイヤ(今さら――気がついた)
「また明日、来ますね」
ダイヤ(その台詞を聞けるのも、)
ダイヤ(今日が、最後だったんだ、ってことに)
ダイヤ(そうだ。わかってたのに)
ダイヤ(私だって、寂しい)
ダイヤ(この学校を離れるのが。内浦を離れるのが。部活が出来なくなるのが。みんなと、会えなくなるのが)
ダイヤ(本当は、寂しくて、嫌で、悲しくて)
ダイヤ(そして――)
――ダイヤさーん!
――また、明日も来ますねっ!
ダイヤ(もっと、話がしたかった)
ダイヤ(スクールアイドルの話で、盛り上がりたかった)
ダイヤ(一緒に、お弁当を食べたかった)
ダイヤ(貴方の冗談に、笑いたかった)
ダイヤ(たまには、叱ることだってしたかった)
ダイヤ(もっと、貴方の笑顔が、見たかった)
ダイヤ「なぜ――いつも」
ダイヤ「自分の気持ちに、嘘をついて――」
ダイヤ「逃げて――しまうんですの」
ダイヤ「わたくしは――・・・」
ポロッ…
…………
……
ダイヤ「・・・・・・・・・」
ダイヤ(次の日――もうすぐ昼休みだというのに、生徒会室に行かずに愚図愚図していたのは)
ダイヤ(あの場所に行ってしまったら――もう、何もかもが、終わりになってしまう)
ダイヤ(そんな気が、していたのかもしれない)
ダイヤ(校門の前に立ち、校舎を見上げる)
ダイヤ(もうすぐ、この学校ともお別れ)
ダイヤ(そして――Aqoursとも)
ダイヤ(千歌さんとも――)
ダイヤ(今さらながら――そのことを実感して)
ダイヤ(目頭が熱くなって、それを誤魔化すかのように、灰色の空を見上げる)
ダイヤ(その時――)
ひらり。
ひらり。と。
ダイヤ(最初は、花びらかと錯覚した)
ダイヤ(だけど、灰色の空から、ゆっくりゆっくり降りてくる――)
ダイヤ(その、白い欠片は――)
ダイヤ「嘘・・・・・・まさか・・・・・・」
ダイヤ「嘘でしょう・・・・・・!?」
――だから、雪が振るって、すごいことなんです。
――この地方で、雪が降った日に、お願いした願い事は――
――必ず、叶うんだって。
ダイヤ(私は、駆け出した)
ダイヤ(走ったら、先生に怒られるとか――そんなことは、どうでもよくて)
ダイヤ(あの場所に)
ダイヤ(いつも、貴方と逢っていた――)
ダイヤ(あの場所に、行って――)
ダイヤ(また。貴方を、迎えたい)
ダイヤ(そして、貴方と一緒に――この、雪を――)
ダイヤ「・・・・・・・・・」ハァハァ
ガララッ…
ダイヤ(生徒会室に着いた私は――窓を開けた)
ダイヤ(部屋の中は、冷気に包まれて)
ダイヤ(でも、空から降る雪は、まるで舞い散る花びらのように、綺麗で――)
千歌「――ダイヤさん」
ダイヤ「千歌さん――」
千歌「雪――雪、雪」
千歌「雪ですよっ!!」
ガバッ!
ダイヤ(私の横に走り寄ってきた千歌さんは――)
ダイヤ(まるで子どものように、興奮気味に窓から身を乗り出した)
千歌「綺麗・・・・・・」
ダイヤ「まさか――本当に、この土地で、雪が降るなんて」
千歌「ほらー、ダイヤさん、言ったじゃないですかぁ」
ダイヤ「なんで貴方がドヤ顔してるんですか」
千歌「でも――良かった」
千歌「滅多に降らない雪を――」
千歌「最後に、ダイヤさんと、一緒に見れて」
ダイヤ「・・・・・・・・・」
千歌「これって、ちょっとした、奇跡じゃありませんか?」
ダイヤ「――違いますわ」
ダイヤ「奇跡なんかじゃ、ない」
千歌「え?」
ダイヤ「ううん――」
ダイヤ「この、1回きりの、奇跡にはしたくない」
――この地方で、雪が降った日に、お願いした願い事は――
――必ず、叶うんだって。
ダイヤ(だから、私は――)
ダイヤ(願った。祈った)
ダイヤ「来年も、再来年も。その先も――」
ダイヤ「どこかで、貴方と――雪が、見られますように」
ダイヤ「これなら――奇跡には、ならないでしょう?」
千歌「・・・・・・・・・!!」
ダイヤ(もう、自分に嘘はつきたくなかったから)
ダイヤ(だから私は、願った)
ダイヤ(貴方と、ずっと繋がっていられるように、って)
ダイヤ(わがままな、願い事だけど――)
ダイヤ(この雪に、祈らずには、いられなかったのだ)
千歌「だ・・・・・・ダイヤさん」
千歌「私も・・・・・・ダイヤさんに、お願い事が・・・・・・」
ダイヤ(真っ赤になった、愛らしい顔を――こちらに向けて)
ダイヤ(千歌さんは――きっと、ありったけの、勇気を振り絞って)
ダイヤ(私に――言ってくれた)
千歌「あの・・・・・・わ、私・・・・・・・」
千歌「ダイヤさんのことが・・・・・・!!」
……
…………
――来年も。再来年も。その先も。
――ずっとずっと。大好きな、貴方と――
――どこかで、雪が――
――見られますように。
おしまい
ありがとう、ほんとにありがとう
またぜひ書いてくれ、寒い日に温かくなれた
超乙
すごく良かった
またダイ千歌の魅力が高まった
|c||^.- ^|| やはりダイちかはよいものですわ
熱すぎず、冷めすぎず、そんな感じの雰囲気がいいね
ダイちかの魅力たっぷりだった